ある秋晴れの日、天気予報を見ると翌日も道内全域でさわやかに晴れ上がるとのことだった。
これは週末が楽しみだなあ、と思っていたらその次の日から雲行きが怪しい。
週間天気予報によると週末はもちろん来週までずっと雨か曇りとのことだった。
10月後半に入ると日中でもかなり寒く、そろそろロングライドを楽しむには限界の季節になってきたと感じてきた。
いくら冬用のジャージを着ても、日照時間が短いのには勝てない。
日が傾くのも早いし、寒いのもそうだけど薄暮の時間帯に走るのも嫌だ。
早朝の暗いうちなら交通量も少ないから気にならないけど、夕方は自動車のコアタイムでもあるので結構危ない。
そしてすでに峠道は冬季閉鎖のシーズンに入りつつある。
11月になると日陰は路面が凍結しているおそれもあるので、ダウンヒルなんてしてられなくなってしまう。
北海道は10月までがロードバイクを楽しめる季節なんだろう。
そう思ったら居ても立っても居られなくなって、休みをとって走りに行くことにした。
幸い(というか不幸中の幸い)、文化の日に働くことになっていたので、代休みたいなものである。
紅葉といえばニセコ
そうなったら行きたくなるのがニセコだ。
紅葉の盛りは過ぎてしまったけれど、前回は雨模様で消化不良だったのでここでリベンジを果たしたい。
pikacycling.hateblo.jp
というわけで4時半に家を出て自動車で国道5号をひた走った。
やがて朝日が登り始めると、田畑に降りた霜が揮発して盆地が霧海に包まれる幻想的な風景が広がった。
これは良い日になりそうだ。
当初の予定では蘭越町のランラン公園に車をデポし、新見温泉跡地から神仙沼レストハウスを経由するいつもコースを想定していた。
しかし出発が遅くなったのでそのコースでは日没までに戻ってこれないだろうと思い、ショートカットすることに。
よりニセコに近い幽泉閣に停めればどうせ帰る時に温泉に入るし、と思いついて行ってみると、朝7時だと言うのに車が結構停まっている。
これはさすがに迷惑になるだろうということで、そのすぐ近くにあったパークゴルフ場の駐車場を利用させてもらうことにした。
清掃協力金100円を払ったので良しとしてもらおう。
ニセコパノラマラインへ
車を降りると予想通りかなり寒い。
ニセコはヒルクライムがあるので登りで暑く、下りで寒く、汗をかいたら冷えて死ぬことが予想された。
そこで今回は、インナーとジャージの間に薄手のウィンドブレーカー(ユニクロ)を着込むことにした(外に羽織るとバサバサしてうるさい)。
これなら登り始めて暑くなってきたらすぐに脱げるし、逆に風を通さないのでダウンヒルでも寒くないし、ちょうど良かった。
MorethanのジャージはLサイズだとゆるめだったんだけど、こうして中にたくさん着込むことを考えるとちょうど良かったかも。

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案の定、登り始めてすぐに汗をかき始めたので途中でウィンドブレーカーを脱ぐ。
そして思ったとおり紅葉が見事で、青空は澄み切って雲ひとつ無くて最高だった。
今日乗らないで、いつ乗るの!?(マジで)
五色温泉のあたりまで登ると標高の高いあたりの木々はすっかり散って枝だけになっていたけれど、下界は紅葉真っ盛りだったので良しとしたい。
展望台から温泉を見下ろしてみると、案の定露天風呂が丸見えで笑った。
まあ、バズーカみたいな望遠レンズでも無ければ判別できないんだろうけど。
インフォメーションセンターのところでウィンドブレーカーを着込んで、エコーラインに突入。
ニセコから倶知安市街地へ続く道道58号は、自分が最も好きな道の一つだ。
両サイドには手つかずの自然が広がっていて、道幅は狭く曲がりくねっているため車通りも少なく、なだらかな斜面をリラックスしながら駆け下りることができる。
エコーラインは一足早く、10月19日から冬期閉鎖になってしまうため、これが今シーズン最後のライドになる。
この道はとにかく走るのが楽しすぎて、写真を撮るような気持ちには全然なれない。
一番楽しく、最も美しい瞬間は自分だけで楽しむのに限る。
周囲には、自分が風を切る音以外の一切の音がない。
キリキリと冷えたその風を肺いっぱいに吸い込むと、自分の体の中に詰まった汚れたものが、入れ替わっていくように感じられる。
脳細胞が目を覚まし、シナプスがパチパチと音を立てて燃え始める。
エコーラインを抜けた後にはカーブがあって、そこで突然現れた羊蹄山の巨大な姿に息を呑んだ。
抜けるような青空を背景に、三角形をした山の裾野には燃えるような紅葉が広がって、その美しさに思わず足を止めて見入ってしまった。
通り過ぎてしばらくしてからふと我に返って写真に撮ってみたけれど、そのときに感じた美しさの1%も表現できない。
多分スマホのカメラでなくっても、一眼レフだろうが8Kだろうがドローンを使おうが、いま自分が感じた美しさのほんの一欠片も再現できないだろう。
もしかしたら山を登って駆け下りて、活性化した脳が見せた幻の美しさだったのかもしれない。
こういう体験が味わいたくて、人は山に登るんだろうな。
麓に降りると、毎度のことながら倶知安町の交通量の多さにビビる。
早々に道道343号に退避し、山の麓のアップダウンを楽しみながらニセコを目指した。
途中でスポーツようかんを食べて一休み。
Primeデーで箱買いしたんだけど、封を切らずに押し出すだけで食べられ、先っちょの切れっ端がゴミにならないところがよく考えられていると思った。
半分ずつに分けて食べられるというのも、走りながら食べることを想定していて素晴らしい。
Picnic
ニセコの市街地を抜けたあたりでそろそろ本格的に腹が減ってきた。
真狩村のあたりでなにか食べようと思っていたんだけど、時間が早すぎて開いている店があまりなく、道の駅で適当に済ませるつもりでいた。
ところが途中で、picnicと書いてある謎の看板を発見。
OPENと書いてあるので調べてみると、なかなかオシャレで評判も良かったので寄ってみることにした。
大きな通りから小道に入ると白樺並木が続いており、羊蹄山がババーンと雄大な姿を現していて景色が抜群なのに加えて、レストランの建物自体も独特の12角形が素晴らしく、店に入る前から圧倒された。
開店時間にはちょっと早かったけれど、2階を貸し切りにしているお客さんが先に来ていて開いていたため、運良く入れてもらうことができた。
メニューはランチ一種類のみで、サンドイッチの具を牛肉かスモークサーモンから選ぶことができる。
ランチの値段は1,300円で、コーヒーまたはハーブティーがセットで1,600円と結構いいお値段だったんだけど、せっかくなのでセットにしてみた。
8種類のおかずに囲まれたランチバスケットは、見た目が美しいだけじゃなくて味も抜群に良かった。
どれもこれも野菜の風味が生かされていてとても美味しい。
ピクルスはシャキシャキで酸味が程よくて体に元気がみなぎるし、百合根が乗ったドライカレーはスパイスの香り豊かで食欲をそそる。
特筆すべきはかぼちゃの煮物で、かすかにシナモンの香りがして、ほとんどデザートみたいだった。
そして最後にとっておいたサンドイッチがいい。
ビーフ! という主張がはっきりと感じられて、肉を食べた感が充足した。
真狩でカツ丼でも食べようかと思っていたんだけど、ここのサンドイッチで完璧に満足できた。
それにしても、十二角柱の建物の中で八角形を描くランチバスケット、そしてその中央には四角形のサンドイッチというのは、ちょっと謎めいていないだろうか。
なにか数秘学的なメッセージが込められているようにも感じる。
食後の珈琲には2品もデザートがついてきて嬉しい。
ここはドリンクセットを頼むのが鉄板だね。
美味しい昼食を食べて、ついでにインナーを着替えてリフレッシュできた。
実は今回のライドはニセコよりもこの後に本番が待ち構えているので、ここで多めに休憩をとって回復できたのは良かった。
昆布
途中にある「羊蹄山の湧き水」でボトルに水を補給。
ここはいつ来ても物凄い人数が何百リットルという水を争うように汲んでいて殺伐としているね。
そしてここから先が今日のメインイベントである昆布岳一周ライドのスタートとなる。
コンビニどころか人家さえもまばらな地帯なので、今日は補給食を山のように積んできたのと、サドルバッグに900ccのポカリスエットを入れてきた。
夏場なら沸騰してしまうところだけど、このくらいの時期なら裸のペットボトルでもちょうどよかった。
真狩村を抜けて道道230号三ノ原ニセコ線に入り、昆布岳を右に見ながらどんどん南下。
この道は思ったとおり車通りがほとんどなく、非常に快適。
ひたすらに続くアップダウンを楽しみながら走り続けた。
さらに山側を走ろうと、途中で道道914号新富神里線へ分岐。
ところがこの先はまさかの未舗装路。
両サイドが森でクマも出そうだったのでここは回避。
あとで調べるとだいたい4kmくらい舗装されていないとのことなので、通らなくて正解だった。
いずれもっと太いタイヤに履き替えてから再チャレンジしようと思う。
仕方なく富浦京極線を南に進み、谷底に降りたところで今日の目的地に到着した。
側面に描かれた「TOYOURA」の文字がポップで田舎な雰囲気が出ていて味わい深い。
そう、ここは北海道5つあると言われるループ橋の一つ、大和大橋。
以前訪れた今金町の光大橋に続いて、2つめのループ橋を制覇しに来たのだった。
光大橋は螺旋状にループ橋自体が上に登っていたけれど、大和大橋は登り部分が崖にあってループ自体の斜度はそれほどでもないので安定感があって登りやすい。
橋の上で絶景を楽しみながら、コンビニで買った蒸しパンをわしわし食べて休憩。
本当はここまで新富神里線を通って上から降りてくるはずだったのが、ループ橋の下に出てしまったので山をワシワシと登らされる羽目になった。
幸いにして舗装状態は大変良く、坂好きなら楽しめるタイプのヒルクライムだと思う。
山の上には山梨という集落があって、そこから美和までダウンヒル。
そして今度は神泉までヒルクライムという、ひたすらに獲得標高を稼ぐライドだった。
斜度はそれほどでもないので辛さは全くなく、純粋に走るのを楽しむ道という感じ。
車通りもほとんどないし、それどころか人もほとんど住んでいないし、無闇に長い距離を走りたいと思ったら最高のコースだと思った。
途中で「ポンペツの滝」なる看板を見かけて、ようやく足を止めることができた。
どうせなら見学してみようと思ったら、橋が崩落していて通行止めとの張り紙が。
最後の一踏ん張りに向けてPrimeデーで買った補給食その2であるプロテインバー(あまり美味しくない)を残ったポカリで流し込み、さらにはアミノバイタルのゼリーまで飲んで体力をチャージした。

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日が傾きかけてきたので、再びウィンドブレーカーを着込んで出発。
ここから先は今までよりもさらに人家に乏しく、心を無にしてみゃくみゃくとペダルを漕ぎ続けるしかない。
人がいない割に道は立派なのでスイスイと進む。
登るばかりで右膝に軽く痛みを感じるようになったので、普段よりも軽いギアにして、尻の筋肉を意識しながらクルクルと回し続けた。
道中、山の中なのにやたらとにぎやかな場所があったと思うと、そこは新幹線の工事現場だった。
もうこんな場所まで工事が進んでいるのか!
地上より高い場所にあるトンネルに直接トラックが入っていけるように、物凄い大きなスロープが設置されていて圧倒されてしまった。
完成前にトンネルの中を自転車で走らせてくれないかな。
そんなことを考えているうちに徐々に民家が増えてきて、ついに出発地点の昆布に帰ってきた。
そういえば、なんでこんな山の中で昆布なんて地名なんだと思っていたら、アイヌ語の「コンポ・ヌプリ」(小さなコブ山)が語源なんだね。
www.iburi.pref.hokkaido.lg.jp
確かに山頂だけがポッコリと突き出していて、面白い形をしている。
という感じで今回のRelive。
ニセコの周りは走りがいのある土地が多すぎてヤバい。これは住める(確信
幽泉閣で〆
自転車を車に収めた後は、いつもどおり温泉でフィニッシュ。
www.town.rankoshi.hokkaido.jp
幽泉閣は前にも来たけど、ここは水風呂がキンキンに冷たいところが最高にいい。
田舎の温泉は大抵が水道水をかけ流ししているだけなんだけど、ここは多分チラーを通して15℃に保っているんだと思う。
温泉で体を温めてから一発目の水風呂はその冷たさに苦しむけれど、二度三度と温冷浴を繰り返していくうちに逆に冷たさが癖になる。
内風呂、露天風呂、湿式サウナ、乾式サウナと水風呂を交互に入って、完璧に癒やされた。
運動直後に水風呂に入ると筋肉の炎症を抑えることができるというのだけど、本当に効果があるのは11℃から15℃の冷水でなければならないらしい。
そういう意味で幽泉閣の水風呂はライド後に入るにはうってつけなのだった。
さらにここはサウナにテレビがない(BGMもない)のがとてもいいのよね。
ひとり静かに心を落ち着けて入るのがサウナの醍醐味なのだよ。
夕飯はいつもの山岡家へ。
蘭越から函館に帰ってくるときはなかなか夜まで開いている店がなくて、24時間営業の山岡家に頼り切りになってしまうのが玉に瑕だ。
好きだからいいんだけどね。