1,200kmという長丁場のPBPもついに折り返しのブレストに到着して、あとはスタート地点まで戻るだけとなった。
こうなると俄然完走が現実味を帯びてくる。
特に制限時間90時間のところ、前半600kmを38時間で走破できたのは大きい。
これまでの完走者のデータを見るに、往路を40時間以内に走り切ることができれば時間内完走の確率がグンと上がるのだそうだ。
それに何より、残り600kmを52時間で走ってしまえばいいというのは心理的に余裕がある。
そんなわけでPBPにおける最重要PCであるブレストに辿り着いたんだけど、裏を返せばブレストは「人が一回しか通らない」ということでもあり、さらには最終組のクローズまであと2時間ということもあってレストランの在庫も乏しかった。
さらには賑やかしにブラスバンドの演奏なんかもあって、芝生で寝ることも許されないという有様だったので、足早に立ち去ることになった。
ブレストの街はランブイエと同じかそれ以上に都会で、ファーストフード店もスーパーもあるし、リフレッシュするにはいい感じだった。
だけどコース沿いにスーパーがあったのはPCに入る前までだったため、リスタート後しばらくしてからあったTABACに立ち寄った。
TABACはいわゆるタバコ屋さんで、ちょっとした規模の街にあるコンビニ的なお店屋さん。
(村レベルではなかなか無い)
主に夜走っていた往路では全然見かけなかったけど、復路では大変お世話になった。
TABAC(タバ)の何が素晴らしいって、ジュースがガチンコで冷えているところ。
相変わらず飲み物のラインナップはコーラとオランジーナくらいしかないけれど、ちゃんと冷蔵庫に入っている飲み物が買えるというのは、何事にも代えがたい喜びがあった。
PCでは気温より冷たい飲み物が飲めるかどうかは完全に運任せなのだ(泣
そしてこの日も昼を過ぎてからどんどんと気温が上がっていった。
夜の寒さに対応するため、裏起毛の冬用ジャージなんか着てきてしまったのでなおのこと辛い。
しかし昼間の暑さはちょっと異常なくらいだったので、ブレストの街を出て田舎になってからは、上のジャージを脱いでしまってミレーの網インナーの上にPBPの反射ジャケットという恥ずかしいスタイルで走ることになった。
でもまあ素肌の上に反射タスキな人も見かけたので、それよりはだいぶマシな格好ではある。
そうはいっても、天気がいいというのは何より素晴らしい。
(この時点ではまだ元気)
ついに大西洋に辿り着いたぜ〜!!!
どうせだったら海の水をボトルに入れて持って帰ってくれば良かった。
名物のプルガステル橋の眺めも良かったし、
タイム的にも余裕が出てきたので村ごとの教会コレクションを撮影する余裕も出てきた。
峠道にさしかかると山側がちょうどよい日陰になっており、たくさんのサイクリストがごろ寝を決めていたので真似してみたり、
ブーランジェリーを見かけては背中に指すためのサンドイッチを買ってみたり。
ここではゴールドのロードバイクにゴールドのシューズでバシっと決めた日本人の参加者がいて、話を聞いたら「チェーンもゴールドだったんだけどオイルで汚れちゃって」とのことで痺れた。
シークレットPC PLEYBEN
そんな感じで楽しんでいたら、2つめのシークレットPCであるプレバンに到着。
気温も高い時分だったので、シークレットな飲み物を補給して仮眠。
PC7 CARHAIX-PLOUGUER(8/22 19:02 697km)
シークレットからカレまではすぐ近くなので、のんびりのんのんと進むだけ。
到着したのは19時2分。
予定よりも1時間ほど遅れ気味だけど、貯金自体はたんまりあるのであまり気にしない。
暑さに胃をやられ気味なので、温かいスープとパリブレストで夕食とする。
ここでも芝生で寝っ転がって、小一時間ほど休憩を取った。
とにかく今回のPBPは暑さのダメージが大きく、速度も出ないし休まないと走っていられないしで大変だった。
夜中は眠さと寒さという敵はいるけれど走るには最適な時間帯なので、本来夜に寝ようと思っていた貯金を切り崩して、昼間に仮眠をとりながらじわじわ進むしかないのだった。
カレを出てからは日が沈んで気温もだんだん下がっていき、走りやすくなってきた。
だけど、途中にあるWPのグアレックは全然記憶にない。
記録では40分くらい滞在したことになっているけれど、ご飯の写真がないから特に何か食べたわけではないはず。
途中で半分公設みたいな私設エイドがあって、そこでコーヒーを飲んだことは覚えているんだけど。
この時点で走り始めてから50時間ほどたち、眠さがだんだんと極まってきた。
特に集団の中にいるとテールライトの明かりに幻惑されて頭がくらくらとしてくる。
平気でライトを点滅させている参加者もいるし、注意しても無視されるし、だいぶテキトーなんだよなあ。
まあ、日本のブルベでも規則で決まってても点滅させる人間はおるから仕方ない。
そんな感じで眠い目をこすりながらぼんやりと走っていると、後ろから
「もしかしてPikaさんですか?」
と話しかけられた。
聞けばその方はMotoさんといい、Twitterで参加者をチェックしていたので自分に気が付いたのだという。
x.com
眠い時に日本人から話しかけてもらえるとめちゃくちゃ助かる。
国内で走るときはサドルバッグにジンギスカンのジンくんをつけているんだけど、今回は荷物になるからと外してきたのは失敗だったなあ。
実は日の丸の手ぬぐいを持ってきてたんだけど、どこにも付けることができなかったのでキャップ代わりに頭に巻いていたという。
(ヘルメットを外さないと見られないので意味がない)
MOTOさんから、心拍数を上げるためにルデアックまで一生懸命走ろうという提案があったので一も二もなく同意して、ふたりで鬼のように爆走した。
知らない外国人とトレインを組むのはリスキーだけど、こうやって息が合う人と一緒に走るとものすごく楽だ。
走り方も似ていて、下りでフル加速してからその勢いで次の登りを登り切っちゃうパターンが共通しているので本当に走りやすかった。
真・PBPの走り方
2019年に参加した人がPBPの走り方を紹介していたのが印象に残っていて、URLは忘れたのでうろ覚えではあるんだけど、登りでは一定のパワーで踏んで、頂上についても足を休めず、スピードが出てから休む、という内容だったと思う。
だけど今回実際に走ってみて、それだとちょっと甘いんじゃないかな、と感じた。
というかやはり自分のようなクロモリ乗りは、他の人と違う走り方になるようだ。
自分の走り方はこうだ。
まず、上りの頂点を越えたらギアをどんどん上げて、DHバーを握って空気抵抗を減らし、下りながらフル加速する。
クランクがセミコンパクトでスプロケットもトップで11Tだから、フル加速しても50km/hいかない程度で足が全速力で回っている感じになる。
そのまま登りに入っても同じ速さで回転を続け、ちょっとでも足に重みを感じたらすぐにギアを下げる。
2✖️12速全部使ってケイデンスを維持したまま走り続けて、速度をほとんど殺さずに登りを越す、という感じ。
ここらへんは、無限にアップダウンが続くけれど斜度が緩やかなPBPならではのテクニックだと思う。
北海道ならまだしも、本州では危なかしくって使えない。
こんな感じでだいたいの坂はアウターのまま越えられるので、感覚的にはPBPのほとんどが平坦コースだと感じていた。
インナーローまで下げても越えられないときは素直に死んでしまうので、頑張った記憶がほとんどないだけともいうw
アップダウンの度にほぼ全部のギアを使うことになるので、Di2が無ければ手首がボロボロになっていたと思う。
下りで快速なのもDHバーのおかげだし、まさに三種の神器だった。
例の走り方では下りで休むことになるけれど、せっかくスピードが乗っているのに殺してしまうのはもったいない。
日本でもフランスでもトレインを組んでいて困るのは、せっかくの加速度を登りで全部殺してしまってから「よっこいせ」とペダルを回し始める人が多すぎること。
加速度を活かして、下りでケイデンスを上げてその勢いで次の上りを楽に越えるというのがPBPにおける必勝パターンだった。
MOTOさんは結構自分と似たような走りで、下りでも登りでも前の人を全員ごぼう抜きする(そしてスピードが死んでからは頑張らない)タイプだったのでめちゃくちゃ捗った。
PC8 LOUDEAC(8/23 02:34 782km)
というわけで、二人で爆走して眠気を吹き飛ばし、快調快速にルデアックに到着。
すでに仮眠を取ってきているから先を急ぐというMOTOさんと別れて、ドロップバッグをゲットしてから今回はじめて仮眠所を使ってみた。
寝る前にまず受付に行って、2時間後の午前4時に起こしてもらうよう伝えておく。
ベッドを確保してからゆっくりと、例の刑務所みたいなシャワーを浴びてさっぱりするのがセオリー(と、往路でJ1クリームの人に教えてもらった)。
寝るところはコットだったので、寝るから床の冷たさも伝わってこないし、毛布も厚くて非常に快適。
まわりは人でいっぱいで、イビキもうるさいしざわざわと物音がしたり、目覚ましのアラームが鳴ったりしていて結構うるさい。
耳栓をホテルに忘れてきたのでヤバいかなと思ったんだけど、目を閉じた瞬間、まさに一瞬のうちに熟睡していた。
受付の人に起こしてもらったのは4時20分で、約束の時間からだいぶタイムラグがあった。
念のため4時30分にアラームをかけておいたから良かったけど、時間には余裕をもって頼んでおいた方がいいみたいだ。
そんな感じで、久しぶりに食堂の机でも、芝生でもないところで寝られたのでだいぶ体力が回復した。
と言いたいところだけど、実際はこの後も何度も寝た。
単純に睡眠時間が足りていないだけなのか、こまごまと外で寝るより仮眠所でまとめて寝た方が有利なのかは分からない。
暑さでバテていたのもあるし、ここまで800km走って体の中のエネルギーがスカスカだったせいもあるし、何が原因か突き止めるのは難しい。
こーゆーことがあるから、PBPを走る前に国内で1,000km超のブルベに参加しておけ、ということなんだろうな。
限界を超えたときにどんな寝方をするのが自分に合っているのか検証するとしたら、その方法しかない。
だけど国内だったら多分ガッツリと宿を取って寝るだろうし、コンビニでご飯食べて快適に過ごしちゃうだろうし、距離だけ条件を揃えてもPBPリハーサルになるかどうかは分からないよなあ。
結局のところ、予想外のことが起きても動じずに臨機応変で対応したり、道端で平気で寝られるような「ド根性」があれば完走できてしまう、という結論でFAなのかもしれないw
というわけで走行距離は800kmを超えて、次回は体力の限界をも超えた1,000km地点までの模様をお送りします。
眠さの限界を超えたとき、人は幻覚を見るという!!!