さて、知床旅情編も3回めにしてようやくロードバイク実走である。
この時期の納沙布岬の日の出は3:30くらい、根室市内から岬までは25kmほどなので、午前2時に発てばちょうど良い計算となる。
が、例の如く自転車に乗るのが楽しみすぎて0時には目が覚めてしまって、1時には全ての準備を終えてしまったのでそのまま出かけることにした。
ネムロマンは鍵を回収ボックスに返してしまえばいつでもチェックアウトできるところがとても良い。
納沙布岬
弘前でのブルベ以来久々のナイトライドではあったけれど、前も後ろも2灯のブルベ対応装備なので恐ることは何もない。
根室半島はハイパー田舎なので人や車は皆無だろうし、むしろエゾシカとかキタキツネとかヒグマとの遭遇が心配というレベル。
街灯も街の灯りもない真っ暗な闇の中をロードバイクに取り付けられた僅かなライトの光だけを頼りに走るのは、やはり少しのスリルがあって著しく楽しい。
夏の夜の風は日中のお祭り騒ぎも忘れてひんやりと静まりかえっていて、こちらのはやる気持ちをしっとりと落ち着ける。
確かな質量を持って存在する闇の中に光のナイフを手に切り込んでいくけれど、自分が通り過ぎた後ですぐにその切れ目はぬっぷりと閉じてしまうような感覚。
ナイトライドにうってつけの道だ。
快調に飛ばしすぎて日の出の一時間前についてしまってやることもなく、店もなく、風を遮る場所もないため微妙に寒い。
しかたないので納沙布岬灯台で灯台カードをゲットしたり、自宅に電話したり、ネムロマンで作ってくれたおにぎりを食べたりして過ごした。
(2時まで寝てりゃあ良かったのに)
ネムロマンのお姉さんが握ってくれたおにぎりは、海苔別包みという嬉しい配慮。
大きさの違ういびつなまん丸おにぎりに、手作りのあたたかさを感じた。
そうこうしているうちに市民薄明となりウミネコがみゃあみゃあと騒ぎ出したのだけど、ネムロマンのお姉さんが予言していたとおり、濃霧に覆われて何も見えない状態だった。
まだ日の出には間があったけれど、このまま待っていても特に大きな成果はないだろうと見切りをつけて出発。
とりあえず本土最東端にたどりついて証明書さえ貰えれば問題ないのだ。
ハセガワストアじゃない……!?
根室中心街から納沙布岬までは半島の北側を走り、帰りには南側を通った。
比較的南側のほうが栄えており、さらには北側には原生花園があったりするので、納沙布岬で日の出を見るならば逆周りの方が良かったかもしれない。
途中のトーサムポロ沼の辺りでエゾシカの群れと遭遇したり(カメラを向ける前に逃げられた)、根室の自然を満喫できた。
再び根室の中心街を抜けている最中に、地元函館でよく見かける看板が見えてきた。
しかし、近づいていくと何かが違う。
ハセガワストアじゃない!!!
これは、以前NHKの72時間で紹介されていた、セイコーマートそっくりのコンビニチェーン、タイエーだった。
www.nhk-ondemand.jp
本家ハセストでは「函館わいん使用」なのが、タイエーだと「十勝ワイン使用」と微妙に変わっているのが面白い。
急ぐ旅でもないし、せっかくだから寄ってみることにした。
あいにく焼き鳥は品切れだということだったけれど、どうせ味的にはそれほど違いがないだろうと諦めて、ハセストでは食べられない鹿肉弁当をゲット。
こってりとした甘いタレのせいで鹿肉の味はよくわからないけれどまあ美味い。
ご飯も進むしビールが飲みたくなる味だった。
食べながらさきほどの根室半島のトーサムポロ沼で見た鹿の親子のことを思い出した。
罠とかで捕まえた鮮度があまり良くない肉を食べるため、甘いタレで仕上げているのかもしれないなあ。
春国岱
この日二度目の朝食を食べ終えた後はさらに西に向かって進む。
そういえば、いままで気が付かなかったけれど根室半島ってほぼほぼ島なんだね。
付け根部分の温根沼という湿地帯が3/4くらいを占めているので、ほとんど分断されている。
下手したら歯舞群島のひとつになっていたかもしれないんだなあ。
などと思いながら先に進むと春国岱原生野鳥公園ネイチャーセンターの看板が見えてきた。
www.marimo.or.jp
春国岱(しゅんくにたい)は風蓮湖に面する砂の島で、手つかずの自然が残された野生の王国だと聞いたことがある。
センターはまだ営業していなかったけれど、急ぐ旅でもないので春国岱の方に寄ってみることにした。
細い橋を越えて駐車場に向かうと、一人の女の人がなにやら柱の先端に向かって脇目も振らずカメラを構えている。
何を見ているんだろうと思いながら近づいていくと、なんと巨大なオジロワシ!
音を立てないようにそっとロードバイクを地面に置いてそーっと近づくも、全然逃げる気配がない。
写真を撮っていた女性は興奮気味に、
「こんなに近づいても全然逃げないんですよ!」
自分も5mくらいまで近寄ったけれど、まったく動じないからすごい。
まさに鳥の王者だ。
streamable.com
女性は、ここから50mくらい離れたところからバズーカ砲みたいな望遠レンズで写真を撮っている男性を指差し、
「あの人から近くによったら逃げちゃうって聞いたんですけど、男の人だからかな? わたし小さいからきっと敵だって思われていないのかも」
しかし興奮気味にそう言うので、ワシは巨大な翼を広げて飛び去ってしまった。
と思いきや護岸のあたりにふわりと降り立ったので、もう大丈夫だろうと思って自転車と一緒に写真を撮ったりしてみた。
いきなりこんな希少動物にばったり遭遇するとは、まさに野生の王国だった。
帰り際に橋を渡っていると向かいからキタキツネが歩いてきた。
写真を撮っているとこちらを無視してスタスタと進み、第二のキタキツネに遭遇。
ひとしきり威嚇し合ったあとで取っ組み合いとなり、
第二のキタキツネに負けてスゴスゴと引き下がるのであった。
尾岱沼
このあとは道の駅スワンねむろに寄ってトイレ休憩。
次の目的地である尾岱沼に向けて、名もなき農道を寄り道したりしながらひょひょいと走り抜けた。
尾岱沼までは別海町の中心街を通るのが近道なんだけど、交通量が多そうだったので海沿いを目指して国道244号を通って本別海へ。
しかし、こちらを通るのであれば走古丹を進んで風蓮湖湖畔公園を目指せばよかったかもしれない。
betsukai.jp
この時点で100km位走ってきて、疲れもあって判断力が鈍っていたのもあるし、事前にルートに入れていなかったのも問題だった。
まあ、このあと似たような地形の野付半島を走るわけだし、また来ることもあるだろうし。
道の駅おだいとうに到着したときはちょうどお昼前くらいのいい時間帯で、外には別海町地域おこし協力隊の屋台が出ていてとても賑わっていた。
そこでシマエビ天丼ライスバーガーを頼んで昼食。
これが激ウマ。
丼いっぱい食べたくなっちゃうね。
ついでにソフトクリームも。
別海町は人の数よりも牛が多いと言われるほどの酪農地帯なんだけど、ここのソフトクリームは別格に美味しいね。
なにかこう、独特の風味があって謎だ。
以前に新篠津のサイクルイベントに参加した際に、わざわざ別海町の牛乳を取り寄せて使っているというソフトクリーム屋さんに寄ったけれど、その時食べたものと同じ味がする。
よしだ旅館
道の駅を出て北上していると、途中でロードバイクに乗ったおじさんに追いついたので
「こんにちわ~」
と声をかけながらオーバーラップ。
しかしその後すぐにセコマがあったので氷を補給するために停車したのですぐに追いつかれて話しかけられた。
ロードおじさんは68歳だといい、地元に住んでいて昨日は野付半島を往復してきたのだとか。
そのくらいの年でも元気に楽しめるのは、ロードバイクとはいい趣味だなあ、と思った。
自分も70か80まで元気に乗りたいものだ。
しかしここまで結構な距離を走ってきて疲れも出てきた。
カロリーを取ってエネルギー補給したとはいえ、やはり昼間になって気温が上がってきたのが厳しい。
それに何より背中に背負ったバックパックがかなり負担になっていた。
そもそも重いし、肩に食い込むのが辛い。
ロングライドだとパニアバッグが一番なんだと思うけど、それだと背負えないから輪行で辛い。
パニアラックとパニア自身の重さで重量増も著しいしね。荷物的にはサドルバッグにツールボトルと鍵、そして着替えのジャージ。
バックパックには輪行袋と充電などの電化製品だけなので、バックパック分をフロントバッグに移すという手はあるかもしれない。
しかし今はそんなものはないので、まずは今回の宿泊先であるよしだ旅館にお邪魔して、バックパックを預かってもらうことにした。
チェックインにはかなり早い時間だったけれど快く預かってもらえたので、距離は少し伸びたけれど結果オーライだった。
野付半島
バックパックを下ろしてしまうと生まれ変わったように身も軽く、まさに風のように駆け出した。
亀仙人の修行で、亀の甲羅を背負いながら生活させられていた孫悟空の気持ちが少し分かった気がした。
あいにくの向かい風だったけれど野付半島は文字通りの一本道、両サイドを海に囲まれているのでなんの障害もなく、小指かけエアロポジションでガンガン走れた。
そしてこの、眺めの素晴らしさが脳を新鮮な気分にさせる。
走っていて新しい風景が目の前に拓けること、それがロードバイクの楽しみだし、走りの原動力だと思う。
ナラワラが意外と良かったなあ。
元々あったナラの森が地盤沈下によって海水が侵入してきて白く立ち枯れているのに、足元には塩生植物が青々と生い茂っているのがアンバランス。
ちょっと明るい地獄っぽい雰囲気で良かった。
そのあとは快調に駆けて突端の駐車場まで。
ここまでで冷感インナーが汗を吸ってビシャビシャになっていたので、誰も見ていない隙を見計らって脱いでしまった。
午前中から12時ころまでは日差しが強いから着ていたほうが良いけれど、日が傾いて気温が高くなってくる午後からは脱いでしまうほうが快適だったし、日焼けもそれほど気になるほどではなかった。
灯台まで歩いていくのはしんどいし、灯台カードもないのでスルーして野付半島ネイチャーセンターまで舞い戻った。
notsuke.jp
ここからトドワラまでは徒歩で片道30分ほどかかるんだけど、歩くと疲れるので楽をしてトラクターに乗ることにした。
肝心のトドワラは最盛期に比べて数が少なくなっており、かなり寂しい感じ。
もともとが荒れ果てて世界の果てのような光景だったけれど、その主役である立ち枯れしたトドたちが豪雨被害で流されてしまったので、寂しさマイナス寂しさで寂寥感を通り越してしまっていた。
標津サーモン科学館
その後は追い風を味方に颯爽と標津町中心街まで戻ってサーモン科学館へ。
s-salmon.com
ここでの期待はオホーツク海のサーモンだったんだけど、食事処は絶賛リニューアル中だったため食べられず。
しかし落胆しつつ入館してみたら、意外や意外、期待の5倍くらい楽しかった。
ハイライトは餌やり体験。
100円で浮き餌を買うと川エリアにいる魚たちに自由に餌やりが出来るんだけど、貪るように群がる様子は圧巻。
streamable.com
さらにすごかったのはチョウザメで、なんとエサをやるだけではなく指をパクパクしてくれるサービスもあるのだった。
streamable.com
チョウザメはサメというけれど歯がないため噛まれても安心とのこと。
エサをばらまくと体の下側にある口を水面まで持ってくるため、まるで立ち泳ぎみたいになりながら寄ってくる。
そこで指を水面に入れてやると気づかずにパクパクしてくれるという寸法だった。
チョウザメ丼やらキャビアが食べられなかったのは残念だったけど、食堂がリニューアルオープンした頃にはぜひ行ってみると良いと思う。
そのあとは町の中をブラブラして、旧標津線の転車台を見学したりして宿に戻った。
再びよしだ旅館
よしだ旅館はおばあさんが一人で切り盛りしているような民宿なので多くは期待できないけれど、値段を考えるとなかなか良かった。
www12.plala.or.jp
ネムロマンと違って布団も匂わなかったし。
風呂は家庭用ので、ボイラーで沸かすから午後4時から9時までしか入れず、結構ぬるい。
気になる人は近くにある日帰り入浴を使うと良いと思う(自分は疲れていたので断念)。
夕飯は特筆すべきところもなし。
聞かれなかったから言わなかったけど、飲み物(お酒とか)のメニューがないのは微妙(自分はセコマに買いに行った)。
洗濯が無料、乾燥機が200円なのは良かったし、夜も自由に出発していいのは良かった。
清潔な布団に潜り込んで泥のように眠りについて、翌朝の出発に備えることにした。